領域について
臨床医療で直接必要とされる知識と技能の修得のみならず、臨床医学に至るまでの基礎医学教育を成立・推進させるためにも、1−2年次における教育の重要性は論を待たない。本領域「生体物質の科学」は化学および生化学内容に立脚し、他の領域とともに医学部低学年教育の根幹をなすものとして位置づけられる。医学教育モデル・コア・カリキュラムはA(医師として求められる基本的な資質・能力)、C(医学一般)、E(全身に及ぶ生理的変化、病態、診断、治療)に該当する。
本領域は以下の「生体物質の科学①、②、③」および「生体物質の科学実習」より構成される。さらにそれぞれのサブ領域は、右に記載した2〜3のユニットより構成される。
「生体物質の科学①」(生体無機化学、生体有機化学I、遺伝生化学I):無機化学から有機化学の基礎と、遺伝学の基礎を理解する。
「生体物質の科学②」(生体有機化学II、代謝生化学I):有機化学の応用と、糖代謝・脂質代謝を理解する。
「生体物質の科学③」(代謝生化学II、遺伝生化学II):サブ領域②とサブ領域①の知識をそれぞれ統合させ、代謝を包括的に理解し、また最先端のゲノム医学、遺伝学を理解する。
「生体物質の科学実習」より構成される。
それぞれのサブ領域は、本領域ではまず生体関連物質と代謝を学ぶための土台となる生体無機化学、生体有機化学I, IIを学び、その後生体を構成する主な成分である糖質、脂質、アミノ酸の構造や合成、分解のメカニズムを代謝生化学I,IIで学ぶ。さらにDNA複製や遺伝子発現調節機構を遺伝生化学I, IIで学ぶ。「生体物質の科学実習」では、基本的な科学的実験操作や考え方を学ぶ。これらの知識の習得は、今後臨床において学ぶことになる様々な疾患の根底にある病態を理解する上で必須のことである。
領域の評価について
領域「生体物質の科学」の評価は、それぞれ第I期、第II期、第III期の期末試験帯に論述形式(必要に応じてMCQ形式も含む)の筆記試験を組み合わせ、サブ領域①、②、③の試験、「生体物質の科学実習」のレポートや実習態度などの成績の総合評価により行う。その領域に属するべてサブ領域の評価が、 GPA評価でグレードC以上で、この領域が合格となる。
サブ領域について
サブ領域「生体物質の科学①」は、入学直後の学生が医学部教育にとって必須の科学的基礎を学ぶとともに、医師として最低限必要な科学的知識・素養を得るために、生体関連性を重視した以下の講義科目3ユニットで構成される。
1) 生体無機化学
2) 生体有機化学I
3) 遺伝生化学I
生体無機化学ユニットでは、主に物理化学・無機化学的視点から浸透圧、酸化還元、緩衝作用など大学医学部における一般化学を講義する。生体有機化学Iユニットでは、生体無機化学の内容を受けて生体における有機化学を理解するための基礎を築く。生体無機化学、生体有機化学ともに、将来的に基礎医学教育に移行していくのに必要な題材を精選して授業する。遺伝生化学Iユニットでは医学を理解する上で必要な基本的概念である遺伝学の基礎を学ぶとともに、その物質的基盤であるゲノム・遺伝子・染色体・核酸の構造を理解する。さらにDNAに収められた遺伝情報がRNAを経てタンパク質として発現する機構と、遺伝情報を正確に維持するためのDNA修復機構を学ぶ。
モデル・コア・カリキュラム
1) 生体無機化学 A-8 科学的探求、C-2 個体の構成と機能
2) 生体有機化学I A-8 科学的探求、C-2 個体の構成と機能
3) 遺伝生化学I C-1 生命現象の科学、C-4 病因と病態、E-1 遺伝医療・ゲノム医療
ユニット名称: 遺伝生化学Ⅰ (2021年度)
ユニット責任者 | 土屋 勇一 |
ユニット対象学年 | 1 |
ユニット授業期間 | 1期 |
ユニット時限数 | 8 |
ユニット分類 | 講義 |
ユニットについて
医学を理解する上で必要な基本的概念である遺伝学の基礎を学ぶとともに、その物質的基盤であるゲノム・遺伝子・染色体・核酸の構造を理解する。さらにDNAに収められた遺伝情報がRNAを経てタンパク質として発現する機構と、遺伝情報を正確に維持するためのDNA修復機構を学ぶ。これらの知識は臨床において、遺伝子・染色体異常と発生発達異常や疾患の発生との関連を理解するために必要である。またがんゲノムデータベースや新型コロナウイルスゲノムデータベースなど、ゲノム情報に関する国際データベースへのアクセス体験を提供する予定である。
該当する医学教育モデル・コア・カリキュラム小項目
C-1-1)-(2)
①Mendelの法則、ミトコンドリア遺伝、インプリンティング及び多因子遺伝を説明できる。
②遺伝型と表現型の関係を説明できる。
③染色体の構造を概説し、ゲノムと染色体及び遺伝子の構造と関係性、体細胞分裂及び減数分裂における染色体の挙動を説明できる。
④デオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid(DNA))の複製と修復を概説できる。
⑤デオキシリボ核酸(DNA)からリボ核酸(ribonucleic acid(RNA))への転写、タンパク質合成に至る翻訳を含む遺伝情報の発現及び調節(セントラルドグマ)を説明できる。
C-1-2)-(1)
③アミノ酸配列や塩基配列の比較による分子系統樹を概説できる。
C-4-1)
②単一遺伝子疾患の遺伝様式を説明し、代表的な疾患を列挙できる。
③染色体異常による疾患の中で主なものを挙げ、概説できる。
④ミトコンドリア遺伝子の変異による疾患を挙げ、概説できる。
⑥多因子疾患における遺伝要因と環境要因の関係を概説できる。
E-1-1)
①集団遺伝学の基礎としてHardy-Weinbergの法則を概説できる。
②家系図を作成、評価(Bayesの定理、リスク評価)できる。
課題に対するフィードバック
講義内容の理解を促進し応用力を養うため、必要に応じて確認テストを行う(ユニットの評価には加えない)。確認テストを行ったら、直ちに(あるいは次回の授業で)模範解答を提示する。なお土屋担当の内容については、講義終了後にGoogleフォームとPC/スマートフォンを利用した復習テストを行う予定である。
受講前に必要とされる知識及び技能・態度
高校レベルまでの生物学および化学に関する基本的な知識と、論理的な説明能力を必要とする。
ユニットの評価について(フィードバック含む)
本ユニットの評価は、Ⅰ学期末の試験帯に行われるサブ領域「生体物質の科学①」の試験として行う。本ユニットの得点配分は30点であり、論述式(概ね75%)、多肢選択式(概ね25%)の筆記試験を行い、原則として可(レベルC)以上を合格基準とする。ただし、サブ領域として不合格の場合は、本ユニットも再試験となる。評価の詳細は、「教育の評価」を参照すること。
定期試験に対するフィードバック
試験終了後に、生物学教授室前に模範解答・成績分布・講評を掲示する。また希望する学生には答案の開示を行い、個別の質問を受け付ける。
指定教科書他
教科書
遺伝医学への招待(改訂第6版)新川詔夫 他、2020
ISBN978-4524249312
要点が簡潔にまとまっており、遺伝医学の全容を大まかに理解するのに向いている。
Essential細胞生物学(原書第4版)中村桂子・松原謙一監訳、南江堂、2016
ISBN978-4524261994
世界的に有名な教科書の日本語訳であり、分子生物学・細胞生物学の基本的事項を網羅している。
参考資料についても、教育ポータルおよびMoodleを活用して積極的に紹介する予定である。