領域名称: 生体物質の科学 (2023年度)

領域責任者中野 裕康

領域について

 臨床医療で直接必要とされる知識と技能の修得のみならず、臨床医学に至るまでの基礎医学教育を成立・推進させるためにも、1−2年次における教育の重要性は論を待たない。本領域「生体物質の科学」は化学および生化学内容に立脚し、他の領域とともに医学部低学年教育の根幹をなすものとして位置づけられる。医学教育モデル・コア・カリキュラムはA(医師として求められる基本的な資質・能力)、C(医学一般)、E(全身に及ぶ生理的変化、病態、診断、治療)に該当する。
 本領域は以下の「生体物質の科学①、②、③」および「生体物質の科学実習」より構成される。さらにそれぞれのサブ領域は、右に記載した2〜3のユニットより構成される。
 「生体物質の科学①」(生体無機化学、生体有機化学I、遺伝生化学I):無機化学から有機化学の基礎と、遺伝学の基礎を理解する。
 「生体物質の科学②」(生体有機化学II、代謝生化学I):有機化学の応用と、糖代謝・脂質代謝・アミノ酸代謝を理解する。
 「生体物質の科学③」(代謝生化学II、遺伝生化学II):ヌクレオチド代謝やビタミンについて学び、さらにサブ領域②とサブ領域①の知識をそれぞれ統合させ、代謝を包括的に理解し、また最先端のゲノム医学、遺伝学を理解する。
 「生体物質の科学実習」
 
 それぞれのサブ領域では、まず生体関連物質と代謝を学ぶための土台となる生体無機化学、生体有機化学I, IIを学び、その後生体を構成する主な成分である糖質、脂質、アミノ酸の構造や合成、分解のメカニズムやヌクレオチド代謝を代謝生化学I、IIで学ぶ。さらにDNA複製や遺伝子発現調節機構を遺伝生化学I, IIで学ぶ。
 「生体物質の科学実習」では、有機化合物や無機化合物の正しい扱い方を学ぶとともに、実験器具や実験装置の基本的操作法を修得し、科学レポート一般の正しい書き方について物質(化学)実習で学ぶ。また解糖系、脂肪酸の合成および分解、酵素反応についての実習を行い、代謝生化学で習得した知識を確実なものにするとともに、実験結果をプレゼンテーションするための資料作成方法を学び、他の学生達の前で発表討論できる実践能力を物質(生化学)実習で身につける。これらの知識の習得は、今後臨床において学ぶことになる様々な疾患の根底にある病態を理解する上で必須のことである。

領域の評価について

 領域「生体物質の科学」の評価は、それぞれ第I期、第II期、第III期の期末試験帯に論述形式(必要に応じてMCQ形式も含む)の筆記試験を組み合わせ、サブ領域①、②、③の試験、「生体物質の科学実習」のレポートや実習態度などの成績の総合評価により行う。その領域に属するすべてのサブ領域の評価が、 GPA評価でグレードC以上で、この領域が合格となる。

サブ領域名称: 生体物質の科学① (2023年度)

サブ領域責任者池﨑 章

サブ領域について

サブ領域「生体物質の科学①」は1)生体無機化学、2)生体有機化学I、3)遺伝生化学Iの3ユニットで構成される。

各ユニットの学修目標
1)生体無機化学ユニット
入学直後に行われる授業のため、高校と大学を架け渡す内容を学修し、各項目を学修する。
医学で必要な基本的な単位を正しく用いることができる。物質を構成する原子の基本的な性質から医学や医学を学修する上で重要な気体の溶解、浸透圧、化学的熱力学、酸化還元、緩衝作用などを定量的に説明できる。
2)生体有機化学Iユニット
入学直後に行われる授業のため、高校と大学を架け渡す内容を学修し、各項目を学修する。
有機化合物の構造式を正しく記載できる。化学結合の原理や有機化合物の生成を説明できる。炭化水素の構造と性質を説明できる。立体異性体の基本的事項を説明することができる。
3)遺伝生化学Iユニット
医学を理解する上で必要な基本的概念である遺伝学の基礎を学修する。
遺伝学の物質的基盤であるゲノム・遺伝子・染色体・核酸の構造を説明できる。DNAに収められた遺伝情報がRNAを経てタンパク質として発現する機構と、遺伝情報を正確に維持するためのDNA修復機構を説明できる。

モデル・コア・カリキュラム
1) 生体無機化学 A-8 科学的探求、C-2 個体の構成と機能
2) 生体有機化学I A-8 科学的探求、C-2 個体の構成と機能
3) 遺伝生化学I C-1 生命現象の科学、C-4 病因と病態、E-1 遺伝医療・ゲノム医療

ユニット名称:[MM603-101J]遺伝生化学Ⅰ(2023年度)

ユニット責任者平 敬宏
ユニット対象学年1 ユニット授業期間1期 ユニット時限数8 ユニット分類講義

ユニットについて

本ユニットの達成目標は、医学を理解する上で必要な基本的概念である遺伝学の理解と、その物質的基盤であるゲノム・遺伝子・染色体・核酸の構造を理解する。さらにDNAに収められた遺伝情報がRNAを経てタンパク質として発現する機構と、遺伝情報を正確に維持するためのDNA修復機構を学ぶ。さらに分子系統樹の作成を通して分子進化の基本的な概念を理解する。

これらの知識は臨床において、遺伝子・染色体異常と発生発達異常や疾患の発生との関連を理解するために必要である。さらに新型コロナウイルスSARS-CoV-2の世界的流行を受けて、遺伝学の理解がこれまでにないほど重要視されている。本授業ではPCR検査の原理、核酸アナログ医薬やmRNAワクチンの作用機序、ウイルスの変異とワクチンとの関係、新型コロナウイルスゲノムデータベースNextstrainなどを取り上げ、生物未履修の学生でも遺伝学を正しく理解できるよう授業を進める。

授業は全8回からなり、前半5回は、染色体・遺伝子の構造、DNA複製と修復、転写など分子生物学的内容を扱う。後半3回は、遺伝学の基礎から遺伝疾患、集団遺伝などを学ぶ。随時、CBTや医師国家試験で出題された関連問題を例題として紹介する。

該当する医学教育モデル・コア・カリキュラム小項目
C-1-1)-(2)
①Mendelの法則、ミトコンドリア遺伝、インプリンティング及び多因子遺伝を説明できる。
②遺伝型と表現型の関係を説明できる。
③染色体の構造を概説し、ゲノムと染色体及び遺伝子の構造と関係性、体細胞分裂及び減数分裂における染色体の挙動を説明できる。
④デオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid(DNA))の複製と修復を概説できる。
⑤デオキシリボ核酸(DNA)からリボ核酸(ribonucleic acid(RNA))への転写、タンパク質合成に至る翻訳を含む遺伝情報の発現及び調節(セントラルドグマ)を説明できる。
C-1-2)-(1)
③アミノ酸配列や塩基配列の比較による分子系統樹を概説できる。
C-4-1)
②単一遺伝子疾患の遺伝様式を説明し、代表的な疾患を列挙できる。
③染色体異常による疾患の中で主なものを挙げ、概説できる。
④ミトコンドリア遺伝子の変異による疾患を挙げ、概説できる。
⑥多因子疾患における遺伝要因と環境要因の関係を概説できる。
E-1-1)
①集団遺伝学の基礎としてHardy-Weinbergの法則を概説できる。
②家系図を作成、評価(Bayesの定理、リスク評価)できる。


準備学修に関して
準備学修の内容は、各授業の詳細に記載されているので参照すること(毎回約30分程度)。仁科担当の内容については、毎回講義終了後にGoogleフォームを用いた復習テストを行う予定である。また授業の一部でグループワークを行う予定である。平担当の内容については、講義開始前にGoogleフォームを用いた形成評価を行う予定である。これらの結果についてはテスト直後または授業時間内にフィードバックを行うが、ユニットの評価には加えない。

受講前に必要とされる知識及び技能・態度

高校での生物学および化学に関する基本的な知識と、論理的な説明能力を必要とする。

ユニットの評価について(フィードバック含む)

本ユニットの評価は、Ⅰ学期末の試験帯に行われるサブ領域「生体物質の科学①」の試験として行う。本ユニットの得点配分は、30点であり、論述式(2/3)、多肢選択式(1/3)の筆記試験を行い、GPA評価のグレードC以上を合格基準とする。遺伝生化学1内での配点は、講義回数に比例する。

サブ領域として不合格の場合は、本ユニットがグレードC以上であっても再試験となる。評価の詳細は、「教育の評価」を参照すること。

定期試験に対するフィードバック
試験終了後に、2号館M3階生物学研究室前に模範解答・成績分布・講評を掲示する。また、日時を決めて希望する学生には答案の開示を行う。

指定教科書他

教科書は特に定めない。

参考図書(授業資料を熟読すれば必ずしも必要はないが、知識を深くするためには参考となる。)

生化学入門書(分子生物学の基礎として)
山田編著「基礎からしっかり学ぶ生化学」、羊土社、2014、ISBN 987-4-7581-2050-0 
鈴木敬一郎他著「カラーイラストで学ぶ「生化学」」改訂2版」、メディカルビュー、2017、ISBN978-4-7583-00098-8
D. Ferrier著 リッピンコットシリーズ 「イラストレイテッド生化学(原書7版)」、石崎泰樹監訳、丸善出版、2019、ISBN978-4-621-30351-1

細胞生物学入門書
B. Alberts 等「Essential 細胞生物学(原書第5版)」中村・松原・榊・水島監訳 南江堂、2021、ISBN 978-4-524-22682-5
世界的に有名な教科書の縮刷版の日本語訳書であり、分子生物学・細胞生物学の基本的事項を網羅している。

遺伝医学入門書
新川詔夫監修「遺伝医学への招待(改訂第6版)」、南江堂、2020、ISBN978-452424931-2、
要点が簡潔にまとまっており、遺伝医学の全容を理解するのに向いている。
渡邊著「診療・研究にダイレクトにつながる 遺伝医学」、羊土社、2017、ISBN 987-4-7581-2062-3、臨床例の記載が多数で、1年次では多少難解であるが、書名の通り高学年での臨床医学科目、研究の参考となる。

このほかに、参考資料についても、Moodleを活用して積極的に紹介する予定である。

授業日程一覧(ユニット名称:遺伝生化学Ⅰ) (2023年度)

コマ数形態授業タイトル
1 講義ゲノム・遺伝子・染色体・核酸の構造と機能
2 講義DNAの複製
3 講義DNAの損傷と修復
4 講義転写と翻訳
5 講義遺伝子とゲノムの進化
6 講義基礎遺伝学(1)遺伝の法則
7 講義基礎遺伝学(2)遺伝と疾患
8 講義基礎遺伝学(3)集団遺伝学
評価生体物質の科学①(10:00~11:30・2実)
評価生体物質の科学①(再)(10:00~11:30・2実)
評価生体物質の科学①(最終)(13:00~14:30・2実)