東邦大学医学部 教育ポータル

領域名称: 臨床医学7 (2022年度)

サブ領域名称: 臨床医学7 (2022年度)

ユニット名称: 総合医療系 (2022年度)

ユニット責任者瓜田 純久
ユニット対象学年4 ユニット授業期間 ユニット時限数30 ユニット分類講義

ユニットについて

総合医療系は臓器横断的な内容となっています。100年前には50才であった日本人の平均寿命は90才に近づいています。縄文時代に平均寿命が30才であったことを考えると、この100年はヒトという種にとって、極めて特異な時代と言えます。紀元前、医療は呪術的な行為でしたが、ヒポクラテスが疾患を自然現象として捉え、科学的に病気を考える礎を作りました。空気や重力の存在すらわからない状況で、論理的な医療を模索したのです。経験と類推を積み重ね、経験を体系化し、学習を容易にしました。一方、学習が容易になると観察が疎かになり、医療とは単なる個人の診療にすぎないとする考えも生まれ、その手法への懸念する声も上がっていたようです。画像診断に頼る現在を彷彿させる議論が、すでに紀元前にあったことはとても興味深いところです。医学はその状態で自然科学の発達を待つことになります。紀元前に始まった経験からの体系化は科学の進歩を経て成熟するはずでしたが、より細かく分けて考える還元論に大きく傾斜しました。デカルトの時代から自然科学の手法はできるだけ細かく、必要な要素に分けて考える還元論が主流でした。とくに物理学は要素還元論により発展しましたが、計算できない複雑な現象への対応が問題となりました。20世紀になると非線形相互作用を扱う複雑系科学が誕生します。物理学は還元論では説明しきれない現象が多い生物学との距離を縮め,大きく変化してきました.単純な規則のみでリーダーの存在しない集合体の組織化されたふるまいを生む複雑系システムの研究が試みられましたが,その手法は多くのデータを集め,統計学的解析を行う臨床医学と同様な方法でした。20世紀以降の臨床医学もパーツに分ける還元論的手法が隆盛を極め,医用工学の発展もあり、還元論的臨床医学は臨床推論の主流です。鑑別診断を挙げ、画像を含む医療情報から消去していく手法は、疾患還元論を象徴しています。しかし、疾患はヒトが定義した集合であり、この定義が正しいことが臨床推論の大前提になっています。しかし、どの集合にも納まらない症候をもつ症例に遭遇したときは、迷宮入りとなり、治療開始を躊躇しがちです。ところが、集合を撤廃して推論を進めることは、不可能ではありません。頑固な症状が持続するとき、その責任病巣、伝達経路、活性化している経路、活性化させるメディエーター、そしてそれらに対する二次的な生体反応も考え、解決の糸口を探ります。非線形相互作用は細胞間や臓器間でもみられる、生体の基本的なふるまいです。その場合、頑固な症状の原因を完全に取り除く必要はなく、現状を少し変化させ、軌道を変えるだけで回復に至る場合も少なくありません。総合医学系ユニットでは、敢えて分けずに考える能力を涵養し、複雑な病態そして複雑な背景因子をもった患者さんに自在に対応できる医師の育成を目指します。

受講前に必要とされる知識及び技能・態度

丁寧に集めた情報を論理的に科学する謙虚な態度が重要です。ほとんどの病気が予防できると期待された2003年の全ゲノム解読後にも臨床医学は大きな変化はありません。アルゴリズムやガイドラインを理解することは重要ですが、それを駆使して診療しても、診断できない場合、治療しても効果がない場合はしばしばあります。その場合、「自分のせいではない」と逃げず、なぜ治療が奏功しないのか、基礎医学まで掘り下げて推論できる知識と責任が求められます。複雑系である生体を診るための覚悟と、医学部を受験したときに持っていた社会貢献マインドを、今一度思い起こしていただければ幸いです。
臨床医学7「高齢者」については講義を受ける前に、WHOの「ICOPE Handbook: Guidance on person-centred assessment and pathways in primary care」の日本語版「ICOPE ハンドブック:プライマリケアにおけるパーソンセンタードな評価と手順に関するガイダンス」特に「フレイル、ロコモーティブシンドローム、サルコペニア、栄養」については、P33-39を15分かけて読んでおくこと。

ユニットの評価について(フィードバック含む)

総合医療系の4ユニット(高齢者医療、地域・僻地医療、総合・家庭医療、東洋医学)が各10点の合計40点満点で評価します。すなわち、各領域の配分が25%となります。各ユニットでは筆記試験、講義内小テストなどで評価し、それらを合計して評価します。筆記試験は各ユニットから均等に1−5題の出題を予定しています。

指定教科書他

指定というわけではありませんが、読むと財産になる書籍を以下に示します。

病院総合診療医学 大道学館出版部
身体所見のメカニズムーA to Z ハンドブック  内藤俊夫監修 丸善出版


高齢者栄養学に関する参考図書

WHOの「ICOPE Handbook: Guidance on person-centred assessment and pathways in primary care」の日本語版「ICOPE ハンドブック:プライマリケアにおけるパーソンセンタードな評価と手順に関するガイダンス」
https://jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/icope_handbook.html

新臨床栄養学 栄養ケアマネジメント 第3版 本田佳子編
総頁数:484頁、発行年月:2016年4月、ISBN978-4-263-70664-0
医歯薬出版株式会社 3,700円

静脈経腸栄養ガイドライン 第3版 日本静脈経腸栄養学会編
総頁数:427頁、発行年月:2013年5月、ISBN978-4-7965-2990-8
照林社 4,000円

日本臨床栄養代謝学会JSPENテキストブック 一般社団法人日本臨床栄養代謝学会編集 発行年月日2021年4月1日 ISBN978-4-524-22885-0 南江堂

日本人の食事摂取基準 2020年版 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書
発行年月:2019年、https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html

エッセンシャル臨床栄養学(第8版)佐藤和人、本間 健、小松龍史編
総頁数:481頁、発行年月:2016年4月、ISBN978-4-263-70671-1
医歯薬出版株式会社 3,700円

Wahan K,Escott-Stump S, Raymond J :Krause's Food & the Nutrition Care Process, 13th edition (Krause's Food & Nutrition Therapy),2012, ELSEVIER

Wahan K,Escott-Stump S, Raymond J :クラウスの13版 栄養ケアプロセスを目指して 栄養学と食事療法大事典(日本語版)、2015年、ガイアブックス、東京